スペース表現領域 
教員インタビュー(2024)

空間の可能性をひらく「スペース表現領域」ってどんな場所?

アート・デザイン表現学科に、2024年度から新たに設置されたスペース表現領域。その中心を担う2人の教員が、本領域での教育にかける思いと、領域の特徴や魅力について語ります。

スペース表現領域教員

後藤 浩介 教授(左)、 西田 秀己 専任講師(2025年4月より准教授)(右)

スペース表現領域が生まれた理由

西田) スペース表現=空間表現。こう聞くと、建築やインテリアに関わることを学べる場所?と思う方がほとんどだと思います。ですが、私たちが目的としているのは、そのイメージとは少し違っています。背景にあるのは、「建築、インテリア、都市計画といったような専門的な領域にゴールを定めるのではなく、人間の根元にある感覚や欲求をよく知ることから空間にアプローチしたい」という思いです。たとえば建築物の始まりは、人間が安全に過ごせる場所(シェルター)です。そこに居心地の良さが加わり、装飾性が現れ、建築という分野はどんどん発展してきました。それと同時に建築は、意匠設計、構造設計、歴史家、法律関係など、高度に細分化・専門化され、作るための技術や知識の方にフォーカスが当たっていきます。技術先行のあり方は高品質なものを生み出せる一方で、人間の感覚に直結したプロセスがとりづらくなってしまうという課題もあります。こういった背景があり、スペース表現領域では「空間ってそもそも何?」というところから空間の原点を知り、原初の視点を持って空間そのものを見つめ直すことができる人を育てたいと考えています。空間の原点に立ち返り、人間の感覚を大切に学ぶことができる場所。そんな学びの場をめざしてスペース表現領域は生まれました。

後藤) 加えて、今の時代背景もありますよね。僕が社会に出た頃はモノやデザインがまだまだ足りなかった時代で、人のことを考えてつくられていないものも数多くありました。でも今は社会が成熟して、ほしいものはすぐに手に入るし、身の回りのほとんどが「デザインされたもの」ですよね。インテリアデザインでも建築でも、すでにさまざまなことが実現されていますし、完成度もすごく高いんです。一方、新たな潮流としてメタバースや情報空間、サイバー空間が注目され、チームラボに見られるような新しい形の空間アートの出現など、空間の概念はどんどん拡張しています。さらに、テキストや絵画、イラストの分野でめざましく発展するAl技術は、遅かれ早かれ空間の分野にも入ってくるはずです。そこで忘れてはならないのが、やっぱり空間は人間のための空間であるということ。Alが出す多様な答えに対して、人間の感覚を大切にして、正しい選択ができる人を育てる必要があります。今までの世の中と、空間のあり方が大きく変わっていく時代。私たちはこの先の社会のためにまず「何を描くべきか」「何をつくるべきか」をしっかりと考えていきたい。これからの世の中で「何が必要か?」をしっかり描ける人を育てることも、スペース表現領域のめざすところですね。

スペース表現領域での学びとは?

西田) スペース表現領域のカリキュラムの特徴は、空間を3つの概念で捉えて学んでいくことにあります。一つ目の概念が「プリミティブスペース(原初の空間)」。まさに空間の原点を知るところから始めます。空間が立ち上がる瞬間ってどういうことなんだろう。空間の定義って何だろう。人がいて成り立つ空間というものの原点にまつわるさまざまなことを考えていきます。次に「テンポラリースペース(瞬間の空間)」。これは仮設の空間、瞬間の空間を意味しています。たとえば光の入り方の違い、椅子の配置の違い、そこで行われることの違いによって、空間というのは驚くほど変容していきます。空間における瞬間の変化などを考えるのがテンポラリースペースです。それらを「イマーシブスペース(没入する空間)」へとつなげていくのは、スペース表現領域の大きな特徴といえるかもしれません。VR、メタバース、劇場、映画……新しいテクノロジーを使って、物語のなかに感覚が没入していく空間。非日常で圧倒されるような空間体験について考えていきます。ここはアートの領域とも深くつながってくると思います。そして、この3つの概念に共通しているのは、どれも「人間の感覚」に立ち返って考える必要があるということ。だから実習や演習など、体験的な学びから自分なりの「感覚」を発見していく、人間の感覚というものを重視したカリキュラムになっています。

後藤) 西田先生が紹介してくださった3つの概念からのアプローチを通して、アナログ空間、デジタル空間両方を扱うことは、スペース表現領域の特徴ですね。また、本領域はアート・デザイン表現学科のーつの領域でもあるので、学科内のメディア表現領域、クリエイティブ・プロデュース表現領域、ヒーリング表現領域、ファッション表現領域といった他領域と一緒に演習を行う機会も多く設けていきます。建築やインテリアなどの人工物だけでなく、自然というのも大事な要素ですから、自然豊かな相模原キャンパスとの連携も行っていく予定です。それからスペースの拡張という意味で、宇宙というテーマも取り上げていきます。重力のない宇宙空間という題材に取り組むことは、既成概念を飛び越えて発想する訓練にもつながります。宇宙旅行の始まりもすぐそこですから、宇宙空間での空間利用のあり方について考えを深めることも視野に入れています。西田先生もおっしゃるように、本領域では実習や演習などを多く取り入れたカリキュラムを予定しています。体験することを通して、人と違う視点、自分なりの物差し、たくさんの発想の引き出しを持ってもらいたい。大学を出たあとの人生は長いですし、世の中の変化のスピードも増しています。空間をデザインしたり、考えたりするにあたって、色褪せることのない自分なりの軸やこだわりを見つけて社会へ飛び立ってほしいです。

スペース表現領域の3つのアプローチ
01プリミティブスペース(原初の空間)「空間」とはそもそもなんでしょう?
森の陽だまりからカーテンの裏側まで、空間の始まりについて考えます。
02テンポラリースペース(瞬間の空間)カーテンが開いているのと閉じているのとではその空間の経験は同じでしょうか?
日常の様々な場所に隠れている空間の表情の変化について考えます。
03イマーシブスペース(没入する空間)日常と非日常の境目はいったいどこにあるのでしょう?
普段の生活を彩り豊かにするような、知覚を刺激し没入させる空間の可能性を探ります。

求める学生像と、卒業後の姿

西田) 本領域のキーワードは「世界をよく知ること」だと思っています。すでに確立され、効率化されたシステムの中でうまくオペレーションすることよりも、人間の欲求の原点を知り、目の前の世界の肌ざわりを知ることを大事にしたい、というのが私たちの思いです。どうして焚き火の周りに集まりたくなるんだろう。どうしてカーテンの裏って落ち着くんだろう。そういう感覚の奥底にあるもの、世界経験のようなものを研究したい人には面白い領域だと思います。

後藤) やっぱり、人間が好きな人かな。空間は人が生活する、生きていく舞台ですよね。それがどんな空間だったら心地いいのか?を考えることを楽しめる人は、ウエルカムです。興味があるのなら大丈夫、モチベーションがあればデッサンに自信がなくても、美術を本格的に学ぶのが初めてでも、臆せずに飛び込んできてほしいです。空間を表現するために必要な技術はもちろん学んでいきますが、今はまだできなくても、入学してから学ぶことができます。それから将来の活躍というところでは、デザイナーやアーティスト、既存のスペース関係の分野はもちろんのこと、心地よい空間を考えられる人として、たとえば公共のまちづくりや福祉分野などで空間のクォリティを上げていけるような人を育てたいという気持ちもあります。“人の心地よさ“に対して感覚を研ぎ澄ませ、社会の居場所づくりをしっかり考えられる人を、ここから送り出していけるといいなと思っています。


教員プロフィール

■後藤浩介 教授(左)
九州芸術工科大学芸術工学部工業設計学科卒業後、株式会社GK設計に入社。プロダクト、サイン、インテリア、ディスプレイ、景観デザイン等に携わる。その後、東京大学新領域創成科学研究科環境学専攻社会文化環境コースにて、屋外での物理的環境と人間の行動についての研究を行う。在職中の主要実績として丸亀市猪熊弦一郎現代美術館/市立図書館家具サイン実施設計、新型郵便ポスト開発、仙台市歩行者系サイン整備計画等がある。

■西田秀己 専任講師(2025年4月より准教授)(右) 
ノルウェー王国ベルゲン芸術デザイン大学芸術学部修士課程修了。光州ビエンナーレ(2014年/韓国光州)、札幌国際芸術祭(2014年/札幌)ほか多数で作品を発表。ロンドン、台北での活動を経て、2018年から2019年にかけてポーラ美術振興財団在外研修員としてモスクワに滞在。風景と人との対話を生む環境インスタレーション作家として活動する他、舞台美術、空間デザイン、インスタレーション、パフォーマンス等も手がける。

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