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学びの熱が冷めないうちに実践。

大学でよくいる場所は図書館だという村松さん。「はじめは、本を読むことが好きだと思っていたんです。でも中学生の時に『はなとゆめ』(冲方丁)という本を見て衝撃を受けて! 表紙の質感とか文字の組み方とか、作り手の工夫を感じられることが好きなんだと気づきました」。文学とデザインの調和に魅力を感じ、高校2年生の時に美大への進学を決意したといいます。
大学2年生の春から学生デザインルームに所属。学生デザインルームとは、学内外からデザインの仕事を受注し、女子美生スタッフが現役アートディレクターから指導を受けながらデザイン実務を経験する、いわば“学内デザイン事務所”です。

村松澪さん

「自分がつくりたいものをつくることは、授業でできていました。じゃあ、相手の意向を汲んで表現することは自分に合っているのかな。やってみたら分かるかもしれないと思ってデザインルームに入りました」。自分を試す状況に身を置いてちょうど1年。クライアントの意向を理解してデザインすることが楽しいと語ります。「お仕事いただいた方はみなさん対等に接してくださるんです。相手がこうしたい!って思うものを実現できた時はうれしいですね」。他にも、入ってよかったと感じたことは多いそう。「先輩と一緒に仕事ができるので縦のつながりもできました。あと、自分の中で制作が完結する授業に対して、デザインルームでは相手の思いをかたちにするので、メリハリがついています」。

信頼を得て、新たな仕事へ。

デザインルームの仕事を通じて実績を積み重ねていくうちに、先生から村松さん指名の連絡が入りました。伊勢丹相模原店の営業終了に合わせて、お客様に感謝の気持ちをあらわす缶バッジをつくってほしいという依頼です。従業員が胸元につけるものなので、スーツでもカジュアルな服でも似合うデザインがいい、というオーダー。入れてほしい言葉も決まっており、制限は多い状況。加えて悩んだのが、イメージの方向性でした。

伊勢丹相模原店の缶バッジ

「伊勢丹って高級な印象がありますよね。でも、高級過ぎちゃうと感謝の気持ちって伝わりにくいのかなと思ったんです。シンプルに“ありがとう”って伝えたいなら伊勢丹感は出さなくてもいいのかもしれない」。悩んだ結果、伊勢丹のロゴと同じカラーを使って世界観を出しつつも「ありがとう」と手書き文字を入れることで親しみやすさをプラスしました。「最終的に友達に相談することが多いんですけど、見せた時の反応を見て『あ、いけるかも』と思いました」。報酬の使い道を聞くと、アートブックの購入に充てているとのこと。アートブックを読みながら、制作のヒントを得ているそうで、インプットとアウトプットの理想的なサイクルを回しています。

村松澪さん
佐倉市印旛沼の水質保全ロゴなども手がけています。

中学生からの
一貫した想いをこの先も。

自分がつくりたいものをつくることと、クライアントの要望を実現すること、どちらを大事にしていきたいかというと「後者。誰かの想いをかたちにしていくことです。いろんな人の協力が集まって、1個のものができあがるのがいいなあと思ってて。デザインに興味を持った出発点である本も、誰かの作品をデザインでかたちにしたものなので、圧倒的にそっちの方が気持ちが強いです」。

村松澪さん

デザインに真剣に取り組む村松さんは語学の勉強にも意欲的です。「今授業で、系統の違うデザイン案を10個出さなきゃいけないんですけど、全然出てこなくて(笑)。なんて発想の幅が狭いんだ!ってショックだったんです。語学を学んで、外の世界を見たら視野が広がるかもしれない」。どうして、デザインにひたむきなのでしょうか。「たとえば、ここにある携帯の角が丸いだけで、『きれいだな』ってちょっとした喜びになると思うんです。誰かの心が、少し豊かになる。私はアートが好きで、その”好き”の力を使うのならデザインが一番向いているかなと思って、デザインをやっています」。

村松澪さん

※2019年5月に取材したものです。