小さい時から、絵を描いたり、工作をしたりすることが好きでした。近くの絵画教室で出会った、女子美に通っているお姉さんたちが楽しそうなのに憧れて、付属に入学しました。しかし、楽しかったのは、ほんの数か月。クラスメートの描く絵と自分の作品の差に気づき、自分は制作には向いていないということを目の当たりにしてしまいました。
さてどうしよう。そんな時に知ったのが「学芸員」という仕事の存在でした。自分は作り手にはなれなかったけど、美術館で働く人になりたい、と将来の夢を決意しました。その後、大学では今はなくなってしまった造形学専攻で、西洋美術史を専攻、キリスト教美術で卒論を書きました。そして千葉大学の大学院に進学。千葉大では、教育学研究科に専攻を変えて、日本の鑑賞教育の歴史について勉強し、大学院修了後に、板橋区立美術館の学芸員として就職、今日に至っております。美術館の仕事に女子美で学んだことはとても役に立っています。美術館学芸員は一般的に美術史を勉強してきた人が多く、実技経験の全くない人もたくさんいます。その中で、付属や造形学専攻で様々な実技を体験したことは、とても貴重です。それともう一つ。女子美と言えば、女子美祭ですよね。実は美術館の展覧会というのは、文化祭のようなもの。テーマを決めて、スタッフ全員が盛り上がって、一気に作り上げていく、その筋道の立て方を女子美祭で学んだと思っています。
現在の私は、「イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」という絵本原画の展覧会を中心に、年間2本くらいの展覧会を企画、実施し、それに合わせて図録も作成しています。文章を書いたり、海外とやり取りしたり、毎日ハラハラドキドキの日々です。美術館の仕事以外にも、国際児童図書評議会というスイスに本部を置く子どもの本関係の団体の国際理事を4年間務め、後半の2年間は読書普及賞の審査委員長として、審査委員会の運営も行いました。板橋区立美術館では、展覧会の仕事のほかに、副館長として館の運営全体に関わり、特に近く行われる大規模改修にあたっては、これからの美術館の役割を考えつつ、プランを練っているところです。
私にとって、女子美で学んだ時間は、恵まれた環境の中で、のびのびと好きなことができた日々でした。課題提出前の徹夜もいい思い出です。個性があって当たりまえ、やりたいことがあればやるのが当たりまえの自由な学生時代があったからこそ、今の自分があると思っています。現在は講師として大学で授業もさせていただいていますが、母校に戻ってこられたことは、本当にうれしく、私の女子美愛はますます強まっているようです。
松岡 希代子 MATSUOKA Kiyoko(板橋区立美術館 館長)