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課題はしんどい、けれど自由な場所。

「課題って、周りの人と比べられながら、うまいこと良いものを作らなきゃというプレッシャーを感じてしまって、もうしんどいですよね(笑)」。洋画専攻絵画コース3年の三好さんは、課題に向かうときの率直な心境をこう語ってくれました。

アニメのイラストを描くのが好きだった中学時代を経て、塾の先生のすすめで女子美の付属高校に進学。そこから油絵に取り組むこと、今年で6年目。大学に進んでからも、油画での表現は「ほかの人より若干慣れてはいるかな」と感じる一方で、制作との向き合い方や距離感に悩むことも日常茶飯事なのだそう。

そんな複雑な思いを抱えながらも、一方で洋画専攻という場所は「本当に自由」だといいます。「今の課題、私はたまたま油絵っぽいことをやっていますけど、油を一切触らなかったり、立体物を作ったり、もう本当に何をやってもいいよという感じ。『技法を学んで、油絵を描ける人になろうね』というよりは、『自分のやりたいことを決めて、制作方法を考えて、突き詰めていこう』みたいな雰囲気ですね」。

確かに、この日お邪魔したアトリエを見渡しても、個人ごとの制作スペースに並ぶ素材は絵具だけでなく粘土や布、雑誌の切り抜きまで多種多様。学生それぞれが自分のスペースで、自分なりの世界観を練り上げながら制作に取り組んでいました。

できなくてもいいから
やってみるという経験。

三好さんがこれまでに手ごたえを感じた制作は、リトグラフの授業を選択して、抽象表現だけでの絵作りにチャレンジしたときのこと。「それは結局、技法的にもモノとしても全然うまくいかなかったんですけど、振り返ったときに初めて、作って良かったなという思いがあったんです」と語ってくれました。
「それまでは何となく『期限があるから』とか『とりあえず課題だからいい感じにしておこう』みたいにうやむやにしていたところがあったんですけど、『できなくてもいいから、やりたいことをやってみよう』と思って制作できたのはそのときが初めてで。それがすごく面白かったし、その後の表現や考え方にもつながっていきました」。達成感が滲んだ表情で、三好さんはそんな思いを教えてくれました。

授業や制作のかたわら、学生スタッフとしてオープンキャンパスで受験生と毎年交流したり、そのメンバーと学外展示をしたりと、女子美の空気感にも愛着を持っている様子。「確実に、どこの学校よりも優しいと思いますね、人が。“変な人がいるのが前提”みたいな感じ。先生も干渉してこないし、それでも質問したらちゃんと真摯に答えてくれる。助手さんもめちゃくちゃ優しいですし」と笑顔がこぼれます。
「居心地悪かったことってあまりなくて、いつもどこかで誰かが趣味やオタクの話をしてたり。そういうのが好きな人にとっても楽しい場所だと思います」。

どんなものでも
美術に結びつけてしまう。

卒業後の進路について聞くと、「就職したい」との答えが返ってきました。「制作を素直に楽しめないタイプなので、作家になりたいとかは全然思ってないです。『あなた絵描けるんでしょ』と言われてたまにちょこっと描くぐらいの感じで、仕事のどこかに大学でやってきたことを活かせたら」。

そんな三好さんも、普段の生活のなかで、何を見ても美術に結びつけてしまう習性はもはや体の一部なのだそう。「テーマパークに行っても『この内装の絵めっちゃいいな、後で参考にできそう』みたいな。楽しみに来てるのに、真面目にそんなことばかり考えちゃいますね」。

少し困った顔をしながらも、作ることへの割り切れない感情を語る三好さんが印象的でした。社会に出ても、彼女が女子美で制作に向き合ったり悩んだりした時間は、きっと特別なかたちで実を結ぶのでしょう。

※2019年12月に取材したものです。