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中学生の頃に決めた
女子美への道

「これは、陶芸部で作ったものです」。物腰の柔らかい口調で、耳元のピアスを見せてくれた石井さん。「はじめて物を作ることに夢中になったきっかけは、中学生のときに友人に教わったアクセサリー作りでした。それから高校の進路を考える頃になり、親から薦められて知ったのが女子美術大学付属高等学校です。文化祭に行ったとき、(隣接する)杉並キャンパスの女子美祭も見学して。女子美生の作ったシルクスクリーンの作品を見て、『自分が考えたものが製品となって、売られているのはおもしろい』と感じ、女子美に入ろうと思ったんです」。

付属高等学校へ進学した後も、女子美への思いは変わらなかったという石井さん。「ただ、どの専攻に進むかは結構迷いました。ファッションや刺繍が好きな気持ちがある一方で、結果的にプロダクトデザイン専攻を選んだのは、より社会に近いというイメージがあって……何と言うか、製品のデザインをするときに人を思って作る感覚がいいなと思ったんです」。

他者の言葉を受け止め、
制作と向き合う

念願叶って入学した女子美での学生生活。学科の授業や「女子力展」(女子美生有志による大規模学外展)、物を作ることを通じて参加する地域のプロジェクトなどから、さまざまな学びを得たといいます。

「人のアドバイスを聞いたり、質問したりするのが好きなんです。ひとりでは全然気付かなかったことを発見できるからです」。「グループで取り組む授業は、印象的でした。みんなの意見を取り入れ、尊重し合いながら作るのは難しい。けれど、すごく成長した気がします」と話します。

3年生の夏には、憧れの企業でインターンも経験。「企業の方に『似たような色合いが多いね』と言われて、すごくハッとしました。これまでもプロダクトデザインは、人のためにと思いデザインしてきたつもりでしたが、自分好みの色味に寄ってしまって、いつも同じような作品の雰囲気になっていたんです」。

取材当日、石井さんの制作デスクには、課題で取り組んでいるという照明の試作品が何点も並べられていました。「インターンでの気づきから、これまで挑戦したことのなかった、スタイリッシュな作品にしてみようと思って」。出会った人たちと交わした言葉を素直に受け止め、デザインとひたすら向き合う力は、石井さんの強さなのかもしれません。

さりげない日常を大切にすることで
生まれるアイデアがある

いつも前向きに制作に取り組む様子を語ってくれた石井さんも、課題で行き詰まる日はあるのだそう。「そういうときは、陶芸部に行って『うおおおお』って手を動かして。自主制作は、課題に行き詰まったときのリフレッシュなんです」と笑顔で教えてくれました。

制作のインスピレーションはどこから?と尋ねると、一冊のノートを見せてくれました。「大学に入学した2017年頃から『ときめきノート』というのをつけていて。『パン屋さんでおばあさんがアンドーナツをアンドウって呼んでいたのがかわいい』とか、『骨董市に行ったときにおばあさんがおじいさんのことをムッシュ~って、呼んでいた』とか(笑)。そういうことを書いていて」。「ただ道にコロコロと転がるどんぐりとか。そういうさりげないシーンを見逃さずに、もっと(そのものが持つ)かわいさを見つけたいなという気持ちを大切にしたいんです」。

日常の出来事ひとつひとつを楽しみ、丁寧に綴る。そんな優しさ溢れる石井さんの感性が、これらからの未来の糧となっていくのでしょう。

※2019年12月に取材したものです。