www.joshibi.ac.jp

「工芸には愛が必要」。
恩師の言葉の意味がわかった瞬間。

カドグチさんの陶芸との出会いは高校生のころ。高校の美術科に所属しながら美術部にも籍を置き、その「絵画班」として絵を描いていた彼女は当時、コンペなどで求められる「高校生らしさ」にモヤモヤを抱いていたそう。そんなとき、部活の合間に美術部のもうひとつの班である「陶芸班」の工房で触れた陶器作りにとても心が癒されたといいます。
「誰かのことを思いながら作ることが、自分のためにもなっていると気づいたんです。『こうすればもっと気に入ってもらえるんじゃないか』って、ポジティブに考えながら制作できる。そこが工芸の魅力だなと思って」。

その気づきのきっかけになったのは、美術科で陶芸を教えてくれた恩師の存在でした。
「恩師に毎日毎日会うたびに言われていた『工芸には愛が必要なんだ』という言葉の意味が、そのときやっとわかったんです。それが高2の終わりだったこともあって、卒業制作は絵画じゃなくて陶芸を選びました」。

進路として女子美を選んだ理由も、この経験とつながっています。「女子美に見学に来たとき、『やりたいことはちゃんと表現しつつ、それ以上に相手にどう感じてほしいかを考えながら作っているんだな』と先輩たちの作品を見て思ったんです。それに、安心する、癒されるなとも作品からすごく感じて、志望校は女子美一本に決めました」。

多様な分野に触れて
陶芸の温かみを再確認。

その後、指定校推薦を経て女子美に合格したカドグチさん。工芸専攻での勉強は、幅広い素材や表現に触れることから始まりました。染、織、刺繍、陶、ガラスの5つの分野を経験した末に、立体表現への魅力を感じ、2年では「陶・ガラスコース」に所属。そこでさらに経験を積み、「やっぱり陶芸の温かみのある感じがいい」との思いから、3年では現在の「陶コース」に進みました。

この日、カドグチさんが工房で目下制作中だったのは、表面に繊細な彫りの加工を施した大型のランプシェード。このコースに来てからは、工房に長時間こもる日も少なくないそう。
「もうとにかく、制作とか課題とか、いつもギリギリまでやってますね。工房ではみんな言ってます、うちらは別に『ギリギリでいつも生きていたい』わけじゃないのにね、って。下手したら、1限から門が閉まるまで大学にいるときもあって、帰りの電車に乗りながら『学校いすぎて私気持ち悪いな』って思ったりします(笑)」。
毎日の制作への没頭ぶりと充実感が、その表情からも伝わってきます。

思いやりの先に生まれる
自分らしさ。

演習で学んだ技法を用いたハンドメイドのアクセサリーを女子美祭や学外のイベントで販売したり、大学で作った器を家族にプレゼントしたりと、カドグチさんの「誰かを思ってものを作る」という制作姿勢は、授業の外でも発揮されています。
「お酒好きな母にぐい呑みを贈ったときは『このサイズ感、いい!』と言ってもらえましたね。使いやすさを追求したものを作っていきたい。でもその反面、大学でこうしていろいろ学んでいるので、ちゃんと自分らしさも相手に感じ取ってもらえるようなものを作りたいなと思ってます」。

いつかは教員として、母校に戻って陶芸を教えたいという思いがあるカドグチさん。「愛」を胸にものを作る恩師譲りのカドグチさんの信念は、そう遠くない将来、また母校で次の世代に受け継がれていくのかもしれません。

※2019年12月に取材したものです。